講師紹介
講師プロフィール

中央大学ビジネススクール
(大学院戦略経営研究科)教授
遠山亮子(トオヤマ リョウコ)
一橋大学商学部卒。ミシガン大学経営大学院博士号(Ph.D.)取得後、北陸先端科学技術大学院大学准教授を経て現職。専門分野は国際経営戦略、イノベーションマネジメント。JAIMS所長・野中郁次郎と長年研究活動を共にし、共著『MOT知識創造経営とイノベーション』(丸善)などがある。JAIMS留学プログラム「East-West Knowledge Leaders Program(EWKLP)」では、野中所長と共に「Knowledge Management and Innovation」の講師を担当。
どんな未来を創り出したいか。企業経営の本質がそこにあります。

米国Ph.D.留学を礎に、ナレッジマネジメントの探究へ。
私の専門領域は国際経営戦略とイノベーションマネジメントです。JAIMSの「EWKLP」では野中郁次郎所長と共に「Knowledge Management and Innovation」の講師を担当しています。
私が教壇に立つ大きな契機となったのは、留学経験です。一橋大学で国際マーケティングを専攻していた頃の私は、その面白さに目覚め、この分野を探究し尽くしたいと思うようになっていました。人から見たらどうでもいいようなところまで突き詰めたい、自分の興味の赴くままに学びたい。まるでオタクです(笑)。そんな私に、「米国の大学院の博士課程(Ph.D.)へ進みなさい」とおっしゃってくださったのが、竹内弘高先生(現・一橋大学大学院国際企業戦略研究科長)でした。
Ph.D.留学では、国際経営に関する広がりのある基本的な文献を山のように読まされ、同時に、研究の方法論を叩き込まれました。徹底的に研究したいと思っていた私に、本質的で厳しい学びに満ちた留学経験こそ必要不可欠であることを、竹内先生は見抜かれていたのでしょう。
帰国し、北陸先端科学技術大学院大学で働くことになって、当時の同大学知識科学研究科長であり、現JAIMS所長である野中先生と出会い、「ナレッジマネジメント」と「イノベーション」を探究する道へ入りました。

イノベーションとは未来創造。
その源泉は、人の熱い思いです。
いつの時代も、企業は常に新しい価値を創り出していかなければ生きていけません。新しい価値を生み出すこと、それがイノベーションです。イノベーションとは通常、企業の技術革新と思われがちですが、それだけではありません。例えば製品であったり、サービスの新しい提供方法であったり、新しい生産方法など、競合に勝ち、社会に受け入れられる新しい価値をどうやったら次々と生み出していけるか。つまり、イノベーションとは未来創造なのです。
では、イノベーションの核となり本質となるものとは何でしょう。私は、実は非常に人間臭いところにその核があると思います。イノベーションとは、方程式のように、ある数値を入れたら決まった答えが得られるものではありません。むしろ、個人の夢であるとか、未来を信じていること。そんな個人の思いがとても大きな影響力を持っているものなのです。特に、日本の企業の場合、例えば1970年代に未来の子供たちへ青い空を残したいから環境性能に優れたエンジンを開発したホンダや、最近では男性の毛髪を何とかしたいという思いから新しい男性用シャンプーを生み出した花王のように、どんな分野においても、人の熱い思いがイノベーションの根底にあります。
では、そうした思いや信念から生まれるイノベーションは、企業において、どのような過程によって実現できるものなのでしょうか。イノベーションの本質は何かを突き詰めていくと、それは知識創造プロセスそのものなのです。すなわち「ナレッジマネージメント」です。

「形式知」と「暗黙知」の相互変換運動。
そして、「場」と「リーダーシップ」が知識を創造する。
では、知識を創造するプロセスとはどういうことなのでしょうか。知識は、私たちが本で読むことができる知識である「形式知」と、職人のノウハウなど言葉ではなかなか表せない知識である「暗黙知」という2つのタイプに分けられます。この対象的な性質を持った「形式知」と「暗黙知」がお互いに変換されていく中で知識は高度に磨かれていきます。そして、組織的知識創造は「SECIプロセス」と名付けられた「形式知」と「暗黙知」のS(Socialization=共同化)・E(Externalization=表出化)・C(Combination=連結化)・I(Internalization(内面化)の高速回転化で可能になります。
そして、こうした知識創造を生み出すために必要なものが「場」です。「場」とは会議室を用意することではありません。「場の空気を読め」「場に合った」などの言葉に表されるように、時間的・空間的なだけではなく心理的な「場」です。個人がそれぞれの文脈を持ち寄り、共有された文脈としての「場」を形成することが、とても大事なことなのです。
また、新しい知識を創り出すためにはあえてカオスにすることも必要です。例えば、非常にチャレンジングな目標を設定し、その達成に向けて、社内に新しい知識創造を実現しなければ突破できない状況をつくる。そうした目標設定や行動の決定をするのがリーダーシップ。経営の本質は決断にあるともいいます。世界のクルマづくりの流れを変えたトヨタのプリウスが好例です。まだ21世紀が明ける前に、「ある日、クルマなんかなくてもいいと思った…いいクルマってなんだろう?」というシリーズ広告をきっかけに、クルマづくりの未来への危機感から、白紙からクルマづくりを考えるプロジェクトをスタート。そのときのリーダーは社内に初めて部門間の壁をなくした「場」をつくり、経営者は不可能と思える開発期限を命じました。その実現のために、トヨタではダイナミックな知識創造プロセスが起こり、環境とエネルギー問題に先駆けて対応したハイブリッドカーがかたちになったのです。

人間の生き方=経営姿勢。「共通の善」を追求する
フロネティック・リーダーを目指してほしい。
アリストテレスは知を三つに分類しています。一つは科学的知識、エピステーメ(episteme)。ものづくりのノウハウであるテクネ(techne)、そしてこの両者を統合する実践的知恵、フロネシス(phronesis)です。エピステーメが形式知であり、テクネが暗黙知にあたりますが、フロネシスは絶えず動いているその都度の状況や文脈の中で最善の判断ができ、行動できることを意味します。例えば、「テクネ」はクルマをつくることができる知識で、「フロネシス」とは何がいいクルマかを知っているということ。なぜ、「エピステーメ」にならないか。それは、時代によって、いいクルマの価値基準が変わるからです。国によっても違う。その都度の条件の中で、いい判断ができること、決断し、行動するリーダーシップを発揮できることが「フロネシス」。リーダーに求められる知識こそ、フロネシスであり、フロネシスを持つ「フロネティック・リーダー」こそ、求められる人材なのです。
リーダーを目指す人には、本質を考え抜く力が重要です。それは、何が本当か、何が善いことか、何が美しいことか、すなわち「真善美」を突き詰めることといってもよいでしょう。企業であるなら、「わが社はなぜ存在するのか」「人のため、社会のために何ができるのか」というコモン・グッド(共通の善)を追求することこそが、経営の本質であると私は考えます。
ギリシア哲学では、知識とは「正当化された真なる信念(justified true belief)」と定義づけられています。何が真なるかは、人によって違うことかもしれません。でも、違いがあるから、新しいものが生まれてくるのです。誰もが同じものを見ていたら、新しいものが生まれる余裕がありません。違うように見える。あるいは、自分には見えないものが他人には見える。そうした違いが、企業においては社員全員が共有できる「善」の正当化のプロセスにつながり、新しいものを生みだす力となるのです。

JAIMSで、未来の自分への第一歩を踏み出してください。
違う考え方、異なる視点があるからこそ、新しい知識が創造できる。そんな知識創造のプロセスをダイナミックに学べる場がJAIMSです。違う国、違う業種、違うバックグラウンドを持つビジネスパーソンが集う場であり、JAIMSがあるハワイ自体が「East meets West」な知識変換の場です。
濃密なカリキュラムで構成されたJAIMSの「EWKLP」は、きっとあなたがフロネティック・リーダーとなるための第一歩を踏み出すことができる素晴らしい機会となることでしょう。知的刺激に満ちたJAIMSで、いろいろな視点で物事を見る力、表面的なことにとらわれず本質を見抜く力を磨いてください。そしてなにより、自分自身について考える力を身につけてください。自分が今までやってきたことは何なのか、今やっていることは何なのか。将来、どんな未来を創り出していきたいのか。JAIMSは、そのための概念、フレームワークを学ぶ、価値ある3カ月となることでしょう。
私自身も、留学経験を機に、未来へ踏み出しました。皆さんの新しい未来が「EWKLP」から始まるはずです。JAIMSで皆さんとお会いできる日を心から楽しみにしています。






