米国見聞録 JAIMS支援部スタッフ執筆
017.井の中の蛙(2010/8/30)
アメリカへ行って痛感したのは、如何に世界が広いかということでした。自分が持っている知識は非常に限定的であるし、自分が知る世界もほんの一部であるし、自分が持つ価値観や考え方というのも、広い世界ではあまり役に立たないということを思い知らされました。私が留学で得られたのは、アメリカで受けた教育でも身につけた英語力でもなく、世界を垣間見る事によって得られた価値観の変容が一番大きかったと思います。
私は日本の普通の家庭で育った平均的教育レベルの人間です。日本は経済力でも教育水準でも世界で上位にランクされているので、例え日本で平均レベルであったとしても、全世界のレベルで見ると、それほど悪くはないのではないかと思っていました。恐らくこの考え方は間違っていないと思います。実際に現地で周りにいたアメリカ人と比較しても、私は普通のレベルだと思いました。
しかし、私が留学した先にあったのは、全く別の世界でした。それは他の国から来た人たちです。アメリカには、世界中から人が集まります。日本のように経済的に恵まれた国であれば、私のように普通の家庭で育った普通の学力を持つ人間も留学することができます。しかし世界の多くは、それほど恵まれた状況には置かれていません。そのため、アメリカで学ぶ事ができる人というのは、ほんの一握りの人たちです。そのような人たちが留学生として集まっているのです
私が大学に編入した際、留学生向けのオリエンテーションがありました。そこでバングラデシュから来た国費留学に声をかけられました。自己紹介など一通りの会話が終わった後、彼は日本の政治や時事問題について、矢継ぎ早に質問してきました。その内容たるや、日本人の私でさえ知らない事が多く、彼の知識の深さと質問内容の切れ味に、舌を巻かれる思いでした。彼は専攻が同じだったので、いくつか同じクラスを取りましたが、教授も一瞬回答に詰まるような質問をしているのを何度か見かけました。統計データで教育水準を比較すると、彼の国よりも日本やアメリカの方が相当高いレベルです。しかしバングラデシュのトップレベルと日米の普通のレベルを比べると、バングラデシュのトップレベルの方が遥かに上なのです。バングラデシュだけではなく、アメリカへ来る留学生の多くは、このようなレベルの人たちでした。
彼は国費留学生だったので、比較的つつましい生活をしていましたが、私費の留学生もたくさんいました。彼らは米国よりもはるかに所得水準が低い国から来ているにも関わらず、非常に金銭的に恵まれていました。彼らの生活水準を見ていると、アメリカでも裕福な生活ができるレベルでした。ドイツの高級車や有名なスポーツカーに乗っている人がたくさんいましたし、賃貸住宅だと家賃を毎月払っても何も手元に残らないからと、家を買った友人もいました。
語学学校時代のエピソードですが、ホームステイしていた友人のところに、コロンビアから来たハウスメイトが加わりました。ホームステイに来て以来、一度も扉を閉めなかったので、最初は静観していたホストファミリーも、遂にその学生に、「実家でも同様に扉を開けっ放しにしているのか。そしてそのような行動に対して、両親は何も言わないのか」と聞いたそうです。するとその学生は、コロンビアでは取り巻きの人たちが扉の開閉を行っていたので、この家にステイするようになってから、初めて自分で扉を開けるようになったとの事でした。
ここで紹介したのは、あくまでも極端な例ですが、実際問題として、留学生コミュニティには、このような学生たちも少なくありませんでした。例えマスメディアで目にする統計的に見て、自分自身が世界でそれなりのレベルにいたとしても、現実は必ずしもそうではありません。なぜなら、世界へ出て行った時に我々が出会うのは、統計情報の平均的なレベルの人ではなく、各国のトップレベルの人たちだからです。例え自国で少しぐらい優秀であったとしても、優秀な人が集まる場所へ行くと、並の人になってしまいます。そのような優秀な人たちがいくらでもいるのだという世界の広さ、そしてアメリカに集まってくる人たちを通して、世界のレベルがどれくらいなのかを肌で感じる事ができた事が、私が留学で得た最も重要なことではないかと思います。

世界中から人が集まるアメリカ(写真はシカゴの街)
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